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幸せになりたいとき

 幸福は暴れ馬だ。いまだ満足な定義すらないのに、人々はそれを自明のものとし、求めては得られず、落胆と失望の日々を送っている。束の間の幸せを得ても、早ければ数秒以内に不満が募り、そしてまた正体不明の財宝を追いかけ始める。

 古今東西、幸福論には枚挙に暇がない。宗教や哲学的なものだったり、経済力のような客観的指標に訴えるもの、近年では脳科学を中心とした生物学的な見解も多い。

 皮肉だが、人が幸福について考えるとき、そこには必ず不幸や不満の感覚がつきまとう。なぜなら、欲望は欠乏を認知したときにこそ生じるからだ。あなたが幸せになりたいとき、そう、実に幸せではないのだ。

 恐らく人は幸せを求めるよう生まれついている。そして決して満足することはない。何事にも不満を抱き、悩み、苦しみ、その過程の中に輪郭のない幸福の幻影を垣間見る。まるで幸と不幸の交わらない二本線の間に、人生のすべてが収められてしまうかのように。